Diary For Paranoid @ hatena

思いつくまま書くブログ。最近は窪田正孝出演作品感想に特化してます(笑)。

さよならは「Daisy, Daisy」

 ロボットやアンドロイド、そして「電脳世界の住人」を描くうえで切り離せないテーマである「ロボット三原則」を打ち出したアイザック・アシモフが亡くなったのが1992年(「ロボット三原則」とは、ロボットに与えられる行動規制事項のこと。「人間に危害を加えてはならない」「人間の命令に従わなければならない」「自己を守らなければならない」の3項目)。
 そして、もうひとり、20世紀を代表するSF界の巨星が、この3月19日に逝ってしまわれました。サー・アーサー・チャールズ・クラーク。1960年代から70年代の“アメリカSFの黄金時代”に君臨し、のちのSF作品の礎を築き上げた、アシモフ、ロバート・アンスン・ハインライン(1988年没)と並ぶ「ビッグスリー」のひとり。『幼年期の終り』や『地球光』など代表作は数々あれど、やはり『2001年宇宙の旅』がいちばん強烈な作品と言えるのではないでしょうか。
 『2001年宇宙の旅』は、もともとスタンリー・キューブリックSF映画をつくろうとして、その科学考証や共同脚本をクラークに依頼したもの。映画が先、小説版は後なんですね。
 
 私が『2001年宇宙の旅』の映画を観たのは学生時代。神戸の映画館だったことは確かなのですが、いつ、だれと観たのかなどは、記憶の彼方。しかし、それまで鑑賞してきた映画にはなかったワイドレンジのスケール観、意表をつく場面の切り返し、(CGなどがない時代に)宇宙空間や宇宙船がみごとにそれらしく表現された映像、そしてスターゲートの光の乱舞に圧倒されて、そのときはただただ「衝撃を受けた」という感想しかなかったことを覚えています。
 「まさに、これこそが“ディープインパクト”だったんだなあ」とは、ずいぶんあとになってから思ったことでした。
 
 難解なテーマを解こうとして、なぜかクラークの小説版に行かず、ニーチェの『ツァラトゥストラはかく語りき』やゾロアスター教アフラ・マズダとか、スプンタ・マンユアンラ・マンユとか、善悪二元論とか)に入り込んでしまったのも、なつかしい思い出。
 余談ですが、モーツァルトの『魔笛』に登場する高僧ザラストロは、ゾロアスター教の開祖ザラスシュトラツァラトゥストラ)に由来する名前です。欧米人にとって、ゾロアスター教の教義というのは、なにかしら心揺さぶられるものがあるようですね。

 今でも『2001年宇宙の旅』と聞くと、リヒャルト・シュトラウスの「ツァラトゥストラはかく語りき」をBGMに猿が骨を投げるシーンや、ヨハン・シュトラウス2世の「美しく青きドナウ」とともに漆黒の宇宙に浮かぶ青い地球を背景に宇宙船が航行するシーンなどが思い出されます(若干、記憶のなかで改竄されているかもしれませんが)。宇宙を表現するのに、既存のクラシック音楽を採用したキューブリック監督のセンスに脱帽。
 ……アニメ版『銀河英雄伝説』で劇伴がクラシック音楽だったのはコレの影響かな、と思っていたり(ホントはどうか、知りませんけど)。宇宙とクラシック音楽、意外と合いますよね。
 
 さて、この映画。宇宙船ディスカバリー号の船長、デイブ・ボーマンがモノリスと遭遇してから、スターゲートを通り抜け、スターチャイルドへ進化する過程での光と色の乱舞や、スターチャイルドという存在の異様なども衝撃的でしたが、なんといっても「コンピュータの目から見た光景」が描かれていたことが、「これは今までにない映画だ!」と思った大きなポイントでした。
 HAL(ハル)9000型コンピュータが、与えられた2つの指示の矛盾から異常を来たしていくさま、最後、機能停止させられながら「デイジーデイジー」を歌うシーン……一貫してHALの目で見たディスカバリー号のようすが挿入されていたからこそ、HALという無機物がなんと不気味で、なんと哀れで、なんと愛しい存在に感じられたことか。本当はHALこそがスターチャイルドになるべき存在だったのではないかと、当時は本気でそう考えていました。
 このHALかわいさが高じて、主人公を差し置いて、『ナイトライダー』のナイト2000(K.I.T.T.)や『新世紀GPXサイバーフォーミュラ』のアスラーダなどに愛を感じる、「コンピュータ、かわいいよ、コンピュータ」病に発展したのは間違いないでしょう(笑)。もちろん、うちのインテル・ソフィアもかわいいヤツですよv

 アシモフ先生の『われはロボット』『黒後家蜘蛛の会』(私にはミステリーのほうがなじみが深いのです)、ハインラインの『夏への扉』『月は無慈悲な夜の女王』(『宇宙の戦士』よりも、こっち方面)、そしてクラークの『2001年宇宙の旅』。……クラークの訃報で、SFやミステリーを飽かずに読んでいたころが、すっかり遠い過去の点になってしまったように感じます。
 
<追記>
 気になって、ちょっと調べてみました。
 フレドリック・ブラウン(『火星人ゴーホーム』)は昔の方というイメージがありましたが、フィリップ・K・ディック(『アンドロイドは電気羊の夢を見るか?』)も、フランク・ハーバート(『デューン 砂の惑星』)も、そしてカート・ヴォネガットJr.(『猫のゆりかご』)に至っては去年に亡くなられていたんですね。うわあ、若いころに読んでいたSF作品の書き手がことごとく……。隔世の感がありますねえ。20世紀も遠くなりつつありますか。
 ウィリアム・ギブスン(『ニューロマンサー』『カウント・ゼロ』『モナリザ・オーヴァドライヴ』)、がんばれ! もちろん、ブルース・スターリング(『ディファレンス・エンジン』ギブスンと共著)も!(スターリングはまだ若いけれど) どうか長く活躍してください。


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