お別れするには、早すぎる……。
新井素子、久美沙織と並んで「コバルト文庫(集英社刊)全盛期の三大女王」のひとりだった氷室冴子が、本日、逝去されました。享年51歳。死因は肺ガンとのこと。「近ごろ、お名前を拝見しないなあ」と思っていたのですが、90年代後半からは活動されてなかったのですね。
私はあんまり少女小説に縁がありません。氷室氏の名前を知ったのも、みさきのあによる『クララ白書』マンガ版の原作者としてでした。それが掲載されていた「コロネット」(小学館刊)を、佐々木淳子の『ブレ−メン5』を目当てに購読していたのです。女子校の寄宿舎「クララ舍」に入るために、なぜか夜中に調理室に忍びこんでドーナツをつくらなければならないという、奇抜ながらも、いかにも女の子の興味を引きそうなストーリーとふわふわした絵が印象に残っています。
それっきりになるかもしれなかった氷室作品。ところが、あまりにも身近なところに伏兵が潜んでいました。なんと弟が、『なんて素敵にジャパネスク』の大のつくファンだったのです! コバルト文庫はもちろん、山内直実のマンガ版ももれなく、さらに『雑居時代』『蕨が丘物語』『ざ・ちぇんじ!』の小説もコミックも買いそろえていたことを、姉は知っている(笑)。
その彼が『なんて素敵にジャパネスク』を「おもしろいから読んでみ」と貸してくれたのですが、当時の私にはどうもピンと来なかったんですね。でも、小説3巻くらいまでは読んだかな。
『ざ・ちぇんじ!』も「おもしろいで」と言われたのですが、『とりかへばや物語』を下敷きにした作品では、同じ時期に発表された木原敏江の「夢の碑」シリーズの『とりかえばや異聞』のほうによろよろと……。
弟とは好みが微妙にずれるんです。たとえば、ふたりとも成田美名子の作品が好きですが、私が『エイリアン通り』の前半がいいと言えば、彼は『CIPHER』がいいと言う。たがみよしひさ作品では、私は『滅日(ほろび)』や『NERVOUS BREAKDOWN』、彼は『軽井沢シンドローム』が好き。新谷かおる作品では、私は『エリア88』『クレオパトラD.C.』、彼は『ファントム無頼』「戦場ロマン・シリーズ」といったぐあい。こうして並べてみると、なんてわかりやすい嗜好の傾向 orz。
そんなわずかな読書体験ですが、マンガ版『クララ白書』や『なんて素敵にジャパネスク』に触れて、女の子の独特の生態や会話の描写が上手な方だなあと思ったことは、今でも覚えています。また文章のテンポが軽妙、かつ、会話から人間関係がよくわかるので、平安時代が舞台でもすっかり物語世界に入り込んで、瑠璃姫といっしょに考えたり、行動したりが楽しかった記憶が……。才気煥発すぎる瑠璃姫と、堅物すぎる高彬。それに、吉野君……鷹男……あ、なんかいろいろ思い出してきたぞ。
そのころ、藤本ひとみの「まんが家マリナ」シリーズに片足突っ込みかけていたので(カークが好きだったんですよv って、今書くと、顔が赤くなっちゃうのはなぜなんだ!?)、同じコバルト文庫なんだからいっしょに読みつけていても不思議ではないのに、そうならなかった作家さん。それなのに、お名前だけは記憶に焼きついている作家さん。
「氷室冴子」と聞いて、大学生のころの思い出がどっと甦ってきました。でもこんなことで、まだお聞きしたくはなかったです。
衷心よりご冥福をお祈りいたします。
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