日常に差す禍の影
実に10カ月ぶりくらいに美容院に行きました。そもそも髪の量が多いのに、肩甲骨の下まで伸びて、重いったらありゃしない。「バッサリ切るぞーっ!」と鼻息も荒く出かけたのでした。
商店街を歩いていると、なにやら文字どおりきな臭い匂いが漂ってきます。さらに目当ての美容院が入っているビルに近づくと、その前には小型消防車が。なにごとかと見やれば、美容院のあるビルの向かいのビルの1階の小料理屋が水浸しで、店の前に10本ほどの消火器が置かれています。周辺には商店街の人らしきおじさんやおばさんが思案げな顔で集まっています。
どうやら火事があった、でもボヤで治まったもよう。
美容師さんの話によれば、私が来店する30分ほど前に煙が上がっているのが見えたのだとか。匂いもすごかったらしいです。しかし、消防車が到着するまでに、商店街のおじさんたちが持ち寄った消火器で消火。そのあと到着した何台もの消防車は通りが狭くて入れず、小型消防車1台のみが現場まで来て、消防士さんたちが鎮火を確認したそうです。
煙に気づいたとき、その美容師さんは小学生の女の子の髪をブローしているところだったそうで、「もしカラーリングの途中で避難命令が出たら、たいへんでしたね」と言うと、「困ったことになったでしょうね」と苦笑されました。
古い商店街なので古いビルが建て込んでいるうえに、建物と建物の間も狭いんですよね。ボヤでよかったものの、すぐに消し止められなかったら大事になっていたかも。禍の影は日常にふと差すものと感じて、寒気がしました。
髪は襟元で切りそろえていただき、さっぱりました。もうちょっと短くてもよかったくらい。軽い頭で梅雨を乗りきりますよ!
さて、6月6日はなにかの因縁の日だったのでしょうか。氷室冴子の訃報に続いて、SF作家・翻訳家であり、テレビ番組のプロデューサーでもあった野田昌宏が逝去されました。享年74歳。
『ひらけ!ポンキッキ』や『料理の鉄人』『発掘!あるある大事典』『クイズ$ミリオネア』などの番組を手がけ、『ひらけ!ポンキッキ』のガチャピンのモデルであるとか、日本SF界の重鎮で通称「宇宙軍大元帥」とか、株式会社ガイナックスの監査役とか、政治家・麻生太郎の従兄とか、Wikipediaを見るだけでもプロフィールの枚挙に遑(いとま)がありません。
なにより、私にとっては「エドモンド・ハミルトンの『キャプテン・フューチャー』シリーズを翻訳された方」でした。同じハミルトンの「スターウルフ」シリーズやA・バートラム・チャンドラーの「銀河辺境」シリーズ、デイヴィッド・ファインタックの「銀河の荒鷲シーフォート」シリーズなどの翻訳者としてご存じの方がいらっしゃるかもしれません。もちろん、野田氏ご自身の著作である「銀河乞食軍団」シリーズでなじまれている方もいらっしゃるでしょう。
「SF界にこの方あり」「日本人の宇宙開発への意識や興味の啓蒙者」という先駆者的な立場にいらした方を失うことは、心もとなく感じるものですね。
「あちらの世界はよほどにいいところに違いない。なにしろ行って帰って来た人を見たことがない」というのは、祖母の口ぐせでした。その言葉どおり、祖母も行ったまま戻ってきませんでした。きっとこの世のことなどすべて忘れてしまえるほど、すばらしいところなのだと信じています。
ご冥福をお祈り申し上げます。
恐怖の宇宙帝王/暗黒星大接近! <キャプテン・フューチャー全集1> (創元SF文庫)
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