Diary For Paranoid @ hatena

思いつくまま書くブログ。最近は窪田正孝出演作品感想に特化してます(笑)。

東京ぶらり旅「旧岩崎邸庭園」 その2「金唐紙」

旧岩崎邸庭園」の続きです。
 たとえば、階段を上れば、1階と2階の柱の装飾が違っていたり。部屋ごとに暖炉のデザインが違っていたり。同じ形、同じデザイン、同じ装飾でまとめられているところなど僅少にも関わらず、全体を見渡せば美しく調和している。これが、「旧岩崎邸」の最たる見どころだと思います。
 その岩崎邸の豪華を語るうえで外せないのが、「金唐紙(きんからかみ)」(「金唐革紙/きんからかわし)」)です。

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金唐紙の壁紙が張られた部屋。入ったとたん、華麗な佇まいに「ほうっ」と溜息が……。
(写真はすべて画像クリックで少し大きくなります)


 「金唐紙」の歴史を簡単に紹介しておきましょう。
 ヨーロッパの王侯貴族の城館や僧院では、石造りの建物の、石と石との隙間から吹き込む冷たい風を防ぐために、なめした子牛の皮に金属箔を貼り、模様を型押ししたものを壁に掛けていました。
 この壁装素材は、オランダから日本に渡来した際に「金唐革(きんからかわ)」と呼ばれ、珍重な舶来品として好事家の大名や商人らの刀の鞘や手箱などに加工されました。

 さて、明治になり、西洋化が推し進められるなかで、日本のあちらこちらの都市に洋館が建てられるようになりました。そこで必要となったのが、洋館に合う壁装素材です。
 17世紀にはすでに、金唐革を参考に、和紙に油を塗って皮っぽくした「擬似皮」がつくられていました。それに改良を加え、和紙に金属箔を貼って型押しを施した「金唐革紙」が開発されたのが、1872(明治5)年。これは1873(明治6)年のウィーン万国博覧会に出展され、ヨーロッパで好評を博します。
 1879(明治12)年には大蔵省印刷局が金唐革紙の製造を開始し、輸出も盛んになります。ヨーロッパに送られた金唐革紙は、英国のバッキンガム宮殿やオランダのヘットロー宮殿、ドイツのモーリッツブルク城など、王侯貴族の城館の壁を飾りました。また、国内でもジョサイア・コンドルと弟子たちによって、鹿鳴館や箱根離宮、国会議事堂などに用いられました。
 しかし、ヨーロッパなどで機械による壁紙の大量生産がかなうようになると、手細工による金唐革紙は押されてしまい、やがて製造中止の憂き目に。金唐革紙の歴史は、ここで途絶えます。

 その金唐革紙を「金唐紙」の名で復活させたのが、金唐紙研究所代表の上田 尚(うえだ たかし)。上田氏が金唐革紙の復原に携わるようになったのは、1983年、東京・八王子の「紙の博物館」で見た「ロール版木」がきっかけでした。
 金唐革紙の製造技法を探り、世界で唯一の金唐紙制作技術保持者となった上田氏は、2003年に旧岩崎邸洋館の客室の修復を手がけます。
 竣工当初の洋館は、全部屋に金唐革紙の壁装が施されていたそうです。しかし、このご時世に修復費1部屋1億数千万円かかるものを全室は難しい。そのため、2部屋のみ復元されました。

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復元された客室その1。革製と言われても
納得してしまう、和紙製「金唐紙」の壁紙。


 復元された客室その2には、金唐紙の製造過程やロール版木、道具などが展示されています。「こうしてつくられるのか」と興味津々で眺めてしまいました。ついでに写真もパチリ!

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金唐紙の製造過程と使用される道具。実際に触ることができる展示も。

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模様が刻まれたロール版木。これに金属箔(基本は錫箔)を貼った和紙を巻き付け、ブラシで
打って型押しします。模様がくっきりと写し取られるまで、4、5時間は打ち続けるのだとか。


 旧岩崎邸庭園では、修復時に出た金唐紙の端切れを栞に加工し、入園窓口にて2種入り1000円で販売しています。
 金唐紙に興味があったので、購入して、即行で裏を見てみました。すると、裏はホントに和紙でした。表からは皮革にしか見えないんだけど……。日本人は真似がうまいと言われますが、もとは革の壁装素材の模造だったとしても、ここまで完成度が高いと、立派に日本固有の技術であり、芸術だと思います。

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上田氏による金唐紙の作品「狩人」。


 旧岩崎邸はもちろん、古い洋館で壁装に凝っている部屋をご覧になったら、ぜひ「金唐紙かな」とチェックしてみてください。
 私にとって身近なところでは、神戸の「移情閣」で金唐紙の壁装の部屋を見ることができるそうです(2000年に修復)。


「金唐紙研究所」サイト
http://www.ab.auone-net.jp/~kinkara/site/kinnkarakami_top.html

「金唐紙 kinkarakami」サイト
http://www5b.biglobe.ne.jp/~kinkara/

「日本のてしごと」内「Feature #008 上田 尚さんが継ぐ手技 金唐紙」ページ
http://www.handmadejapan.com/features_/ft008_01.htm

「和紙ジャパン」内「金唐革紙の魅力」ページ
http://www.washijapan.com/wageneral1.html

「紙の博物館」サイト
http://www.papermuseum.jp/