幻の連載!? 第4回「少女マンガ」トピックス<1>
季節の挨拶文に「立春とは名ばかりの寒さ」というのがありますが、このところの冷え込みは冬の底という感じです。湯たんぽ、レッグウォーマー、フリース毛布2枚、足元に電気ストーブという完全装備にも関わらず、寒い。しんしんと寒い。
キンと張り詰めたような寒気のなか、帰り道に見上げた夜空には、街灯の光に負けることなくオリオン座が白々と輝いていました。
さて、「幻の連載」の最終回です。当時、「24年組」の一人である萩尾望都の『バルバラ異界』が「日本SF大賞」を受賞したので、タイムリーとばかりにトピックスにしてみました。
「少女マンガ」トピックス<1>日本SF大賞受賞!『バルバラ異界』
掲載日:2007年2月23日 テーマ:読書、マンガ
「キミはいずれ息子に殺されるよ」……萩尾望都の最新作が受賞
毎年、対象年度内に発表されたSF作品のなかで優れたものに贈られる「日本SF大賞」(主催:日本SF作家クラブ)。これは、小説、評論、マンガ、 イラスト、映像、音楽など、ジャンルやメディアにとらわれず、SFでさえあれば選考対象となる珍しい賞です。その「第27回日本SF大賞」に、萩尾望都の『バルバラ異界』(小学館)が選ばれました。1980年から続くこの賞でマンガ作品が選ばれたのは、第4回(83年)の大友克洋の『童夢』以来、23年ぶりになります。
萩尾望都は「花の24年組」を代表する少女マンガ家の一人。ごく日常的なラブコメディからロマンチックホラー、SF、サイコ・サスペンスまで幅広く手がけながら、破綻することのない明瞭なストーリー展開で、多くの読者を魅了してきました。
「少女は両親を殺し、その心臓を食べたのか」……夢の中で謎解きが始まる
特にSFは、『スターレッド』『銀の三角』『X+Y』の3作品で、SFファンの投票で選ばれる「星雲賞(コミック部門)」を受賞するなど、萩尾望都の真骨頂ともいうべきジャンル。『バルバラ異界』でも、「なんだろう」と思わせるミステリー風味の始まりから、父親が息子に託した希望さえ切ない終章まで気を抜かせません。キーワードは、夢、火星、若返り、遺伝子操作、意識の共有。科学技術の発達は見られるものの、現代とあまり変わらない西暦2056年の日本が描かれます。
他人の夢に入り込み、夢の中から殺人事件などの真相を探る<夢先案内人>渡会時夫(わたらいトキオ)は、両親の殺人事件に遭遇し、7年間も眠ったままだという十条青羽(じゅうぞうアオバ)の夢を探る仕事を引き受けます。青羽の夢に入り込んだ時夫は、青羽が幸せに暮らす謎の島<バルバラ>の存在を知りますが、それはなんと、自分の息子、キリヤの夢につながっていたのでした。
「未来はきみらを愛してるか?」……父から息子への、過去から未来への
『バルバラ異界』は、一見、なんの関連もなさそうに見える事柄が最後にすべてつながるという、驚くベき収束力に圧倒される作品です。
しかし、ストーリーの核にあるのは、時夫の息子に対するベタなまでの思いです。時夫は、他人の夢に入るという能力を嫌う妻と、キリヤが2歳のときに離婚しました。息子に会うことを禁じられていた時夫は、久しぶりに帰国した日本で、15歳になったキリヤに再会します。思いがけず共に行動することになり、時夫は初めて自分が<父親>であったことを自覚し、彼を他人扱いするキリヤにどう接していいかわからず、戸惑います。恩師から「いずれお前はキリヤに殺される」とまで言われた時夫の、新米パパもかくやといわんばかりのオロオロぶりと、息子を知れば知るほど高まっていく愛情、そして少しずつ変化していくキリヤの時夫への複雑な思いが、時に微笑ましい父子の関係です。
このプロセスがあってこその、最後の絶望と希望……。息子さんをお持ちのお父さん、お母さんならさらに感動できるのではと思える、<親子>を考えさせる作品でもあります。
『バルバラ異界』(小学館/flowers comics)は、たいへんな怪作です。未読の方は、これからこの作品を読む楽しみがあるんだなあと、ちょっと羨ましい。コミックは全4巻です。一気読みをお薦め!
「barubara」(『バルバラ異界』公式サイト)
http://flowers.shogakukan.co.jp/barubara.html
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