Diary For Paranoid @ hatena

思いつくまま書くブログ。最近は窪田正孝出演作品感想に特化してます(笑)。

この秋お薦め! 『エディット・ピアフ 愛の讃歌』

 秋になると、シャンソンが聴きたくなります。私のシャンソンのイメージが「枯葉(Les feuilles mortes)」や「もう森へなんか行かない(Ma jeunesse fout le camp)」の曲調に決定づけられているせいかもしれません。
 そんな秋にお薦めしたい映画が『エディット・ピアフ 愛の讃歌』。エディット・ピアフは、「バラ色の人生(La vie en rose)」「パダン・パダン(Padam Padam)」「水に流して(Non, je ne regrette rien)」、そして「愛の讃歌(Hymne à l'amour)」など、シャンソンを知らない人でもこの曲は知っているだろうという、名曲の数々を歌ったシャンソニエです。


 1915年、パリの下町の路上で生まれたエディット・ジョヴァンナ・ガションは、貧困のなかで育ちました。祖母が経営する売春宿に預けられ、長じて大道芸人の父と旅に暮らすうちに、歌を歌ってお金を稼ぐことを覚えます。父親と別れてパリの路上で歌うようになった彼女は、名門クラブのオーナーだったルイ・ルプレに見出され、「雀(ピアフ)」の名でデビュー。豊かな声量、力強く、叩きつけるような巻き舌の迫力、気取らない、むしろすれた歌い方で人気者となり、歌手としての一歩を踏み出します。
 しかしルプレが殺害され、その容疑者に。証拠不十分で釈放されたものの、「もうひとりの父」と慕ったルプレを失ったうえ、ステージで「人殺し」の罵声を浴びせられたピアフは絶望します。その彼女を救ったのが、レイモン・アッソ。作詞・作曲家のアッソはピアフに厳しい発声・歌唱訓練を施し、ピアフの復帰コンサートを成功に導きます。
 1947年は、生涯の恋人となるボクサーのマルセル・セルダンとの出会いの年。妻子あるセルダンとの恋は祝福されるものではありませんでしたが、ふたりは燃え上がります。
 2年後の1949年、パリからニューヨークに向かうセルダンの乗った飛行機が墜落。アメリカ公演中のピアフの「早く会いたい」という言葉に、航路から空路に変えた結果の悲劇でした。セルダンの生前、不倫の恋に終止符を打つために、ピアフはセルダンへ贈る“至上の愛”を歌詞に書いていました。彼が亡くなった夜の公演で、ピアフはこの歌──「愛の讃歌」を披露します。
 それから、47歳で亡くなるまで、ピアフは奔放な人生を歩みました。


 ジャン・コクトーマレーネ・ディートリッヒと親交を結び、イヴ・モンタンシャルル・アズナブールらを見出した、まさに「時の人」。ジョルジュ・ムスタキの作詞による「ミロール(Milord)」や、シャルル・デュモンの作曲「水に流して」などなど、ピアフの歌声を得て名曲となった歌も数々。

 数あるピアフの名曲のなかでも特に私が好きなのが、1960年に発表された「水に流して」。「Non, je ne regrette rien」の直訳は「いいえ、私はなにも後悔はない」。いかにもピアフらしい歌です。


Non, je ne regrette rien
(Paroles:Michel Vaucaire Musique:Charles Dumont)

Non! Rien de rien
(ノン! リアン・ドゥ・リアン)
Non! Je ne regrette rien
(ノン! ジュ・ヌ・ルグレット・リアン)
Ni le bien qu'on m'a fait
(ニ・ル・ビアン・クゥオン・マフェ)
Ni le mal tout ça m'est bien égal!
(ニ・ル・マル・トゥ・サ・メ・ビアン・エガル!)
Non! Rien de rien
(ノン! リアン・ドゥ・リアン)
Non! Je ne regrette rien
(ノン! ジュ・ヌ・ルグレット・リアン)
C'est payé, balayé, oublié
(セ・ペイエ・バレイエ・ウブリエ)
Je me fous du passé!
(ジュ・ム・フュ・デュ・パッセ!)


いいえ、まったくなにも、
いいえ、私はなにも後悔はない。
人が私にしてくれた、よいことも、
悪いことも、なにもかも私には同じこと。
いいえ、まったくなにも、
いいえ、私はなにも後悔はない。
私は代償を払い、清算し、忘れた。
過去なんて知ったことか!


 映画は、私がもっていたピアフ像をより鮮明に印象づけてくれました。私が知るピアフの生涯を、映像という具体性をもって見せてくれたという感じです。
 特にピアフを演じたマリオン・コティヤールの演技がすごい! まさにピアフが生きて動いていると思えるほどの怪演でした。違和感がまったくないんですよ。若いころはもちろん、麻薬でどんどん身体を崩し、衰弱していく彼女の姿を怖いほどに演じてくれました。なんだかピアフが乗り移っているようにも感じました……。

 ピアフの人生をご存じない方にも、わかりやすい物語になっていると思います。この才能も、人生も希有なシャンソニエの生きざまを、シャンソンの名曲とともにぜひ観ていただきたいです。

 『エディット・ピアフ 愛の讃歌』公式サイトは、こちら(※音楽が流れます)。

エディット・ピアフ~愛の讃歌~ (2枚組)

エディット・ピアフ~愛の讃歌~ (2枚組)