Diary For Paranoid @ hatena

思いつくまま書くブログ。最近は窪田正孝出演作品感想に特化してます(笑)。

20年越しのナイトメアのイメージ

 本年12月に公開予定の映画『悪夢探偵2』の試写会に行ってきました。原作・製作・脚本・撮影・編集はすべて、塚本晋也。まさに塚本ワールドという作品になっています。主人公の「悪夢探偵」こと影沼京一を演じるのは、松田龍平
 映画の紹介はいずれ仕事のほうでできたらと思います。


 今回は『悪夢探偵2』に絡めて、「悪い夢」を扱ったマンガの話などを。
 私の大好きな作品に、杉山志保子の「ばくシリーズ」(白泉社花とゆめコミックス)があります。シリーズを収録したコミックスは『ばくの飼い方教えます』『天使が僕に堕ちてくる』『幻獣博物館』の3冊。『ばくの飼い方教えます』の初版発行が1988(昭和63)年10月。第1作目の「ぼくらはみんな起きている」が今は無き「花ゆめEPO」に掲載されたのが1986(昭和61)年ですから、実に20年以上前の作品になります。
 最近、杉山先生が『アンジェリーク ラブラブ通信』『ネオロマンス通信Cure!』『コミック アンジェリーク』などでご活躍中と聞いてなんだか安心したのでした。ただ、「ばくシリーズ」はおそらく絶版だと思われます。なので、簡単に内容をご紹介しますね。


 高校生の御与士郎(おき よしろう)は、保健省精神衛生局心療課に所属する国家公務員でもある勤労学生。なぜ高校生が公務員をやっているのかと言うと、彼はテレパシー(精神感応能力)をもつ超能力者だからです。
 保健省精神衛生局心療課とは、人びとの心の悩みが寄せられるセクション。拒食症の児童相談から、殺人願望のみが人から人へ乗り移っていく連続殺人犯の捜査、クローン再生技術で生み出された感情をもたない実験体の保護などなど、「精神」が絡む、常識では割りきれない相談事や事件・事故を専門に扱います。表に出ない心の深層を探らなくてはならないため、心療課の実働部隊はほとんどがテレパス(精神感応者)。彼らは、人の悪夢を食べるという貘になぞらえて、「ばく」と呼ばれています。


 両親を早くに亡くした与士郎は、猫のよたろうとふたり暮らし。人格が分裂した少女の精神を分裂前まで遡らせて、後から生まれた人格を消し去ったり(元の少女は与士郎の親友の彼女で、分裂した人格の少女は与士郎が好きというオマケつき)、自覚のない三角関係で悩んでいた老婦人の心のなかに入り込み、恋心を好意に置き換えてつじつまを合わせたり……。「象の不眠症も治す」と言われる彼は、クレヤボヤンス(透視能力)やサイコキネシス(念動力)もこっそり使えたりする、心療課きっての凄腕の「ばく」だったりするのです。

 与士郎の姿を借りた超能力者の悪戯で心療課のメンバーに狩られるハメになったり、テレパシーの波長がターゲットと同じだったという理由で暗殺者に命を狙われたり、彼の能力を欲しがっている企業に洗脳されて、仲間と戦わされそうになったり……。
 そもそも、10歳のとき、母親の死について心療課に記憶操作され、記憶も自覚もないまま残ってしまった罪悪感のせいで心療課の仕事を受けるようになったのかも……という、どこまでも不幸体質な彼。


 けれども、消えた少女に涙を流し、感情が芽生えたばかりの女の子の背中を前に進めるよう押してやり、自分を殺しかけた暗殺者を許してしまう、そんなやさしさを失わずにいるのは、与士郎自身が孤独のつらさや心に受けた傷の痛みをよく知っているから。それに、与士郎の連日の遅刻に頭を痛めながらもフォローしてくれる先生や、なにか事あらば(鳴海&津々井コンビを派遣して)ケアに努めてくれる上司である部長、そして心強い仲間たちがいるから……。
 他校に通う1学年下の高校生で、接触テレパス(他人の身体に触れることにより、精神感応できる)であり、同じテレパスとして与士郎を尊敬しまくっている鳴海笙。鳴海のクラスメイトでケンカ友だち、ただし仕事では絶妙なコンビネーションを見せるサイコキノ(念動力者)の津々井箏治。そして、与士郎のクラスに転校してきた、サイコキネシス、テレポート(瞬間移動)、テレパシーを使う万能型エスパー・大野深雪。事件をきっかけに知り合った彼らは、与士郎を理解し、慕ってきます。フォローしたり、フォローされたり。だから、「すぐにでもやめられるからな、おれはーっ」とつぶやきながら、飄々とした風で与士郎は今日も他者の心と向き合うのです。


 連作の一話一話で扱っている事件はけっこう深いのだけれど、基本的に行動範囲や生活基盤が「高校生」という枠からはみ出さない、まじめな物語のつくりが好きです。なんといっても、強力な超能力者にも関わらず、与士郎はじめ仲間たちの感性が地に足がついているのがいいなあと思います。

 前書きがたいへん長くなりましたが、マンガを読みながら、与士郎が人の心の深層に入り込んで悪夢を片づけるとき、どういう映像を見ているのだろうと考えていたんですね。マンガにはほとんど絵として描かれてなかったので、よけいに気になったんです。
 それが、今回の『悪夢探偵2』を観て、「ああ、もしかしたらこんな感じなのかもなあ」と理解できた気がしたと申しますか。幽霊っぽい部分は『悪夢探偵』ならではの映像でしょうが、その不条理感や日常の風景にぽっかりと空いた穴のようなイメージは共通するところではないかと思われて、20年越しのもやもやがだいぶん晴れたような気がしたのでした。
 『悪夢探偵』の第1弾は観ていないので、早めにレンタルビデオででも観たいなあと思います。


悪夢探偵2』公式サイト
http://www.akumu-tantei.com/


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