Diary For Paranoid @ hatena

思いつくまま書くブログ。最近は窪田正孝出演作品感想に特化してます(笑)。

立川にて「百鬼夜行の世界」を観る

 8月3日に、そう、5年ぶりくらいにお会いした方から「おもしろかったですよ」と教えていただいた「百鬼夜行の世界」に、ようやく出向くことができました。
 この展覧会は国立歴史民俗博物館国際日本文化研究センター国文学研究資料館が連携し、千葉県佐倉市にある国立歴史民俗博物館と東京都立川市にある国文学研究資料館の2カ所で同時に開催されたもの。期間は7月18日〜8月30日ということで、ひととおりの入稿を終えた本日、国文学研究資料館のほうに行ってみました。


 立川には一度行ってみたかったので、いい機会v 以前、多摩センターに取材に行ったときに「多摩都市モノレール多摩モノレール)」の存在に気づいたのですが、その路線上に立川があるとはこのたび初めて知りました。23区についても把握しているとは言いがたいのに、東京西部ともなるとさっぱりです。
 JR立川駅からモノレールの立川北駅までは徒歩3分ほど。一駅目の高松駅で下車。運賃100円。駅から国文学研究資料館までは徒歩約20分の道のりです。道路沿いに、左手にだだっ広い駐車場、右手に物流ターミナルを見ながら、晩夏の日射しのなかを歩きます。遮るものがないので、上からの日光と下の歩道からの照り返しが暑い……。
 いやに荒涼とした整備中ばかりの土地が広がっているなあと思ったら、このあたりは米軍立川基地の跡地だったんですね。突然、ガラス張りのモダンで大きな建物が現われたかと思ったら、今年4月に業務を開始したばかりの東京地方裁判所家庭裁判所東京地方検察庁の立川支部だったり。自治大学校があるのは理解できますが、国立国語研究所国文学研究資料館統計数理研究所国立極地研究所などなどがとてもモダンでスタイリッシュなビルのなかに収まっているさまはなんとなく違和感。国文学研究資料館って、語感で古びた石造りの建物をイメージしていたので、「へえ」という感じでした。目指すは学研都市なのでしょうか。
 アメリカ軍が横田基地に移転し、立川基地が日本に返還されたのは1977年。当時を知る人にとっては、感慨深い風景であるかも知れません。


 観賞料300円を払って展示室のなかへ。まず二曲一双の屏風に描かれた「百鬼夜行図」が1帖と、江戸時代に描かれた「百鬼夜行絵巻」が4軸展示されていました。
 そもそも百鬼夜行の絵(百鬼夜行図)というものをよく理解していなかった私。てっきり絵師によってさまざまに想像された、オリジナリティあふれるいろいろな妖怪が描かれているものだと思っていました。ところが、数ある屏風絵や絵巻は「祖本」と呼ばれるひとつの百鬼夜行図を模写したものだったのですね。
 なるほど、唐傘小僧や妖怪提灯、朧車、鬼火、天狗に河童、猫又、海座頭といった全国津々浦々の妖怪も、なんとなく「この姿」というのがありますよね。水木しげるの妖怪画の影響は拭えないとしても、怪談本や映画、遊園地のお化け屋敷などに登場する妖怪には、その妖怪がなんであるかを示す「記号」があります。
 つまり模写によってその妖怪がもつ「記号」を後世まで伝えてきたわけで、そう考えると、百鬼夜行図というのは単なる物語絵巻というだけでなく、図鑑的な役割も果たしてきたのかなと思います。


 また、「百器夜行図」と言われるだけあって、百鬼夜行図に登場する妖(あやかし)は年経た動物や器物が魂(人格)を得た「九十九神付喪神(つくもがみ)」がほとんど。言ってしまえば、「擬人化」絵なんですね。
 鎌倉時代以前の百鬼夜行図には存在しない九十九神の原型が描かれたのが、鎌倉時代の『土蜘蛛草子』。そして室町時代の『付喪神記』にて、それぞれの九十九神の因縁が設定されました。以降の百鬼夜行図には共通して、手足が生えた琵琶、箏、笙、鉦などに代表される和楽器たち、頭が鍋、釜の調理セットにどっしりと座りこむ臼、ちょこまかと画面を駆け回る食器類、おどけた格好の角盥や化粧に余念がないお歯黒などが登場します。
 恐いというよりなんとも微笑ましいばかりなのですが、さて『今昔物語』などから想起されたはずの、鎌倉時代以前の鬼ばかりの百鬼夜行図とはどんなものであったのか。あるものなら見てみたいと思いました(展示は江戸時代からの「百器夜行図」ばかりだったのです)。


 ところで、「模写」と書きましたが、写して終わらないところが百鬼夜行図のおもしろさ。絵柄や色づかいが絵師によって違うのは当たり前ですが、妖ひとつひとつにも絵師の創意工夫が加わっているのです。ポーズを変えてみたり、持ち物や衣裳を変えてみたり、レイアウトを変えてみたり。ついでにオリジナルの妖をこそっと混ぜてみたり。記号や雰囲気、仏教的な意味合いは踏襲しながらも、自分だけの「百鬼夜行図」を完成させているところ、さすが絵師の面目躍如たる、ですね。

 展示には、絵巻の妖怪たちを抜き出して「図鑑」に仕立て上げた鳥山石燕の『百器徒然袋』や、明治時代の画家・河鍋暁斎の『暁斎百鬼画談』など、京極夏彦ファンならニヤリとくる妖怪絵本もありで、見応えがありました。


 国文学研究資料館というだけに、絵図のほか、『今昔物語』や『宇治拾遺物語』『栄花物語』『大鏡』などなど、江戸時代に刊行された版が展示されていました。師の賀茂忠行の供をしていた安倍晴明百鬼夜行に遭った話や藤原師輔百鬼夜行に遭遇した際に尊勝陀羅尼を唱えて難を逃れた話など、百鬼夜行にまつわる逸話が書かれた部分が開かれていて、「ああ、本当に書いてある!」と感動。すでに知っている説話でも、古文書のなかに昔の日本語で実際に書かれているのを見るとわくわくしますね。


 ここの展示がおもしろかったのは、スペースや保存問題の関係上、ひと巻全部を広げて展示できない絵巻について、デジタル映像で観られるようにモニターが設置されていたところ。ここでは見られなかった室町時代の「百鬼夜行絵巻」を含めて4軸の絵巻ものについて、タッチパネルで最初から最後まで紐解くように観ることができます。部分拡大や観る早さの調整も指の動きで調節できるので、その場で繰っているかのよう。デジタル画像のうえに、指で操作するために顔を近づけざるをえないので、ドットが目立つのが難でしたが、これは画期的だなあと感心しました。

 図録の『百鬼夜行の世界』を購ってきましたので、秋の夜長に妖たちの行列についてもっと勉強しようと思います。


国文学研究資料館サイト「百鬼夜行の世界」ページ
http://www.nijl.ac.jp/~koen/tenji09-2.htm

国立歴史民俗博物館百鬼夜行の世界−百鬼夜行絵巻の系譜−」ページ
http://www.rekihaku.ac.jp/events/p090718.html

怪異・妖怪伝承データベース
http://www.nichibun.ac.jp/YoukaiDB/