Diary For Paranoid @ hatena

思いつくまま書くブログ。最近は窪田正孝出演作品感想に特化してます(笑)。

ディオニソス的な画家、カラヴァッジオ

 本日の『美の巨人たち』は、カラヴァッジオミケランジェロ・メリージ・ダ・カラヴァッジオ)の「聖マタイの召命」でした。


 私はギリシアローマ神話に登場するディオニソスバッカス/バッコス)神が好きです。酒神だからじゃないですよ(笑)。この神は、ゼウスと人間の娘セメレとの間に生まれた「半神」で、炉の神ヘスティアに譲られて「オリンポス十二神」に加わりました。炉(家庭・保守)が酒(宴・酩酊・感情と感性の開放)に座を譲り、アポロン(理性)と同格の神となった過程がおもしろいと思うのです。
 ちなみに、アポロンは人生あるいは芸術において秩序・精神的存在・進化を、ディオニソスは渾沌・自己消滅・退行を表わすとされます。
 ゼウスの妻ヘラの嫉妬から発狂させられ、人間界を放浪していたディオニソスは、小アジアアナトリア)の大地母神キュベレーに出会って狂気を癒され、キュベレー祭祀の秘儀を授けられます。ディオニソスを「東方からの外来神」とする説もあり、彼の存在は古代ギリシア小アジアの関係性を示唆すると言われています。
 さらに、ヘラの命令を受けたティターンに八つ裂きにされ、蘇った「復活神」という逸話もあり、「死」を通過儀礼(イニシエーション)として神格を得るという、“近代的”な成立過程を経た神とも考えられます。
 とにかく「オリンポス十二神」の中でおそらくいちばんエピソードが多い神であり、神でありながら自身の死、母の死、信者による敵対者の殺戮といった、「死」をまとわりつかせている、不思議な存在。そして、その復活が人類誕生の契機になったという、オルフェウス教の神話の基ともなった「生」なる存在でもあります。
 ギリシア神話における、「神々の黄昏(ラグナロク)」のロキのようにも感じられて、昔から私の興味をそそってやまない神様なのです。


 そんなわけで、欧米の美術館でまず見入ってしまうのが、ディオニソスをテーマにした絵画・彫刻なんですね。髭面のオッサンから美青年、両性具有的な美少年までそろっておりますよ。
 なかでも印象的だったのが、カラヴァッジオの2作品。フィレンチェのウフィッツィ美術館にある「バッコス」と、ローマのボルゲーゼ美術館にある「病める少年バッコス」。
 「バッコス」は、顔がすごく東洋的というか、日本の飛鳥美人に似てるなあと思ったんですよね。豊かすぎる黒髪に黒葡萄、黒に近い赤ワインといった、黒のアクセントが効いた絵。観る者に差し出されているようなワイングラスに添えられた手の、小指がなんとも色っぽい。
 「病める少年バッコス」を観たときは、「これがディオニソス?」と驚きました。当時はカラヴァッジオの自画像とは知らなかったので、「ディオニソスをこんなふうに病的に描いた絵は初めて見た。わざわざ変な絵を描く人だなあ」と、はっきり言って気持ち悪い絵だと思いました。
 後にカラヴァッジオの経歴を知り、なるほど自身をモデルにディオニソスを描いたのは、「自分はディオニソス的な画家だ」ということを表現したかったのかと納得しました。


 カラヴァッジオという画家について驚愕したのは、どんな大作でも、下絵もデッサンもなしに描き上げたということです。彼は、アトリエに友人たちや町で目に止まった人を呼んで、頭に描いたシーンのとおりに配置し、ポーズしてもらい、それを直接キャンバスに描いていったんですね。恐るべき空間把握力、画面構成力だなあと、「天才」としか呼べないなあと驚嘆しました。
 また、静物に見られる写実には目を見張るものがあり、特に葡萄の房を描かせたら、この人の右に出る者はいないだろうと思います。
 彼の絵は、よく言われるように、生きて動いている人間の一瞬を切り取ったようにしか見えません。それが、彼独特の光と影の効果でさらに劇的に見えるという……。非常な演劇的視点をもった人でもあり、それもまた、演劇を司る神ディオニソスと自身を重ねる理由になったのかもしれません。
 ディオニソス的というだけに、カラヴァッジオの人生には才能の開放と同時に酩酊と死がつきまとっています。39年の生涯で、彼がなにを起こしたのか──。
 端的に言えば、殺人者でありながら、イタリアの10万リラ紙幣にその肖像が採用された人。まさに「ナントカと天才は紙一重」の見本のような……。


 そのあたりを知りたいという方は、2月13日に銀座シアトルシネマで公開される映画『カラヴァッジョ 天才画家の光と影』をぜひご覧ください。
 大阪ではテアトル梅田、神戸ではシネ・リーブル神戸、京都では京都シネマ、福岡ではシネ・リーブル博多駅などで順次上映されます。その他の地域、および詳細は、以下のサイトからどうぞ。
 この映画は「カラヴァッジョ没後400周年記念公開」であると同時に、東京都美術館で開催中の「ボルゲーゼ美術館展」に連動しています。興味のある方は、そちらもどうぞ。


美の巨人たち」サイト
http://www.tv-tokyo.co.jp/kyojin/

映画『カラヴァッジョ 天才画家の光と影』オフィシャルサイト
http://caravaggio.eiga.com/

ボルゲーゼ美術館展 ラファエロ《一角獣を抱く貴婦人》」サイト
http://www.borghese2010.jp/

 カラヴァッジオの作品については、以下のサイトで見られます。
「Salvastyle.com」カラヴァッジョ
http://www.salvastyle.com/menu_baroque/caravaggio.html

「ヴァーチャル絵画館」カラヴァッジョ
http://www.ne.jp/asahi/art/dorian/C/Caravaggio/Caravaggio.htm


カラヴァッジオ NBS-J (ニュー・ベーシック・アート・シリーズ)

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カラヴァッジオ (イタリア・ルネサンスの巨匠たち―バロックの誕生)

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