カラヴァッジオ→レンブラントもいかがでしょう
昨日の「日記」にカラヴァッジオについて書きながら、思い出されてならなかったのがレンブラント(レンブラント・ハルメンス・ファン・レイン)のことでした。
スポットライトを当てたかのような光と影の効果、日常のワンシーンを切り取ったかのような動きを感じさせる画面と美化のない写実的な人物描写、さらに感動が計算された演劇的な演出……とくれば、レンブラントでしょ。実際、『カラヴァッジョ 天才画家の光と影』のキャッチコピーは、「16世紀イタリア バロック絵画最大の巨匠 彼がいなければレンブラントはいなかった」ですからね。
カラヴァッジオほど破天荒ではありませんが、レンブラントもまた30代で肖像画家として成功し、「天才」「巨匠」と讃えられながら、転落の人生を辿った人物です。そのきっかけとなったのが、一枚の絵。1642年に手がけた、今では彼の代表作とされている『夜警(フランス・バニング・コック隊長とウィレム・ファン・ラウテンブルフ副隊長の市民隊)』でした。いったいこの絵のなにが、レンブラントの破滅を招いたのか。
その謎に挑んだのが、2008年に公開された映画『レンブラントの夜警』。監督はピーター・グリーナウェイ。そう、あの『英国式庭園殺人事件』の監督です。
『英国式庭園殺人事件』は、1982年に製作された、グリーナウェイ監督の長編映画の第1作。17世紀末の英国を舞台にした、風変わりな作品です。
ウィルトシャーのハーバート屋敷に招かれた画家ネヴィルは、ハーバート夫人から、14日間ほどの夫の留守中、夫自慢の英国式庭園のあちらこちらを12日間で12枚の絵に描いてほしいと依頼されます。礼金はもちろん、夫人との情事も契約に含めたネヴィルは、1日目に12枚の絵それぞれの場所と構図を決めました。ところが、2日目から妙なことが起こります。前日になかったものが、何者かの手で12の場所に置かれていくのです。壁に必要のないハシゴ。木の枝にハーバート氏の切り裂かれたシャツ。芝生の上に氏の乗馬靴、マント、馬の鞍。そして、氏の愛馬の死体。それらはハーバート氏の死を思わせますが、ネヴィルは気にとめることなく、画面にそれらを描き込みながら作業を進めます。そうして、12枚の絵が仕上がったとき……。
確かに「殺人事件」ではあるのですが、その謎を解くミステリー映画ではありません。見終わったとき、邦題に騙されたと思いましたもん。普通、このタイトルから想像するのは、解決込みの推理モノだと思いませんか!?(原題は『The Draughtsman's Contract』。「デッサン巧者の契約」ってところでしょうか。確かに直訳を邦題にしても受けそうにないですけどね)
なんと言うか、寓意画ができあがる過程を見せられたような気分になりました。映画のジャンルとしては、アラン・ロブ=グリエの脚本をアラン・レネが監督した『去年マリエンバートで』と同じところにカテゴライズされるかもしれません。映像美と「不条理美学の極地」という点で。
もともと画家を志し、美術学校に通いながら映画を撮影していたというグリーナウェイ監督。絵画的にいちばん影響を受けたのが、17世紀オランダ絵画だそうです。まさにレンブラント、フェルメールの時代ですね。
『レンブラントの夜警』では、レンブラントの絵画さながらに、光と影の効果を最大限に活かした映像を見せてくれます。さらに、レンブラントの絵の描き方もわかって、「あの作品はこうして生まれたのか!」というドキュメンタリーを観ているような感動もあり。
『英国式庭園殺人事件』とは違って、監督の解釈で一応の謎解きもされているのでご安心あれ。むしろ安心できないのは「ここまで描くか!?」という部分で、他人様の赤裸々な私生活を覗き見しているような気分になりました(R-15指定です)。
……記憶を辿れば、リリアーナ・カヴァーニ監督の『ルー・サロメ 善悪の彼岸』もわりと赤裸々映画だったなあなんて思い出したりして。1977年公開の作品で、ロシア生まれの女流哲学者ルー・サロメと哲学者フリードリッヒ・ニーチェ、ニーチェの友人でやはり哲学者のパウル・レーの、理想の「聖三位一体」なる三人暮らしと、その崩壊を描いたもの。ドミニク・サンダが蠱惑的なルーを演じていました。
日本で上映されたのは1985年。その際、40カ所以上が修正されたそうです。私がなぜこの映画を観たかというと、麻薬が見せる幻覚が映像化されていたから。この作品も、絵画的な映像美にあふれています。DVDはノーカット版でR-18指定ですが、『レンブラントの夜警』がOKな方はこちらもいかがでしょう。
映画『レンブラントの夜警』オフィシャルサイト
http://eiga.com/official/nightwatching/
レンブラントの作品については、以下のサイトで見られます。
「Salvastyle.com」レンブラント
http://www.salvastyle.com/menu_baroque/rembrandt.html
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