あまりにもやるせない、映画『ヤコブへの手紙』
『ヤコブへの手紙』はフィンランド映画です。季節の移り変わりに伴う風景の変化、昼と夜の明暗、天候による雰囲気の激変など、背景がドラマを盛り上げる大いなる装置になっている、映像美を堪能したい映画です。描かれるドラマはなんともやるせないものではありますが……。
殺人を犯し、終身刑に処せられた女囚ノーラは、恩赦により釈放される。向かった先は恩赦を申請し、彼女を雇ったヤコブの元。彼は寒村の牧師館に住む盲目の老牧師で、彼の元に送られてくる信徒たちのさまざまな相談の手紙を読み上げ、彼の口述どおり返事を筆記してくれる人を求めていたのだ。しかし、恩赦の申請も含めて牧師の行動を偽善としか思えないノーラは、牧師宛の手紙を密かに捨て、仕事を放棄する。
やがて手紙は来なくなり、人びとの相談に応えること、その結果の報告や感謝の言葉を読むことを存在意義としていた牧師は、自己を崩壊させてしまう。
牧師の元から去ろうとするノーラだが、思いきれない自分に生への欲求や他人を思いやる気持ちが残っていることを知る。
「そうなったらイヤだなあ」と思う方向へ突き進んでくれる映画。素直に感動させてくれず、鑑賞後ももやもや感を引きずるところ、ドストエフスキーやチェーホフに通じるものを感じます。主要登場人物はヤコブ、ノーラ、郵便配達人の3人、尺は75分という中編作品ですが、重力ズッシリ級。
なぜ『クレアモントホテル』と『ヤコブへの手紙』が併映だったのか考えるに、たぶん『クレアモントホテル』のこのセリフが鍵でしょうか。「人はホメられることが大事だ。でなきゃ、失意のうちに死ぬ」。自分がしている/してきたことを他人に認められないと、自分は存在する意味を失う。これこそが人間の背負った真の原罪だと思う、この頃。
『ヤコブへの手紙』のパンフレットは手紙風。便箋には監督の挨拶と作品紹介。フィンランドの田舎の美しい風景を背景にした映画のシーンはポストカードっぽく。5枚とも裏に解説などが書かれています。心にくい演出だなあ、と。
『ヤコブへの手紙』予告編:http://www.youtube.com/watch?v=ylBGumYqaws
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