高村薫の原作小説の泥臭く乾いた空気を忠実に映像化! 映画『黄金を抱いて翔べ』
『黄金を抱いて翔べ』鑑賞。いやあ、いい映画でした! 高村薫の原作小説を読んだのは20年近く前のこと。いろいろ忘れていましたが、映像を観ているうちに思い出しました。特に幸田とモモちゃんは「ああ、そうそう、こんな感じだった!」と懐かしい人に再会した気分に……。
幸田は厭世的で、他人の好意も悪意も突っぱねて生きているけれども、人の目を見て話せない人見知りで、どこか人恋し気な孤独感を漂わせていて、つい面倒見たくなってしまう。
そんな人物がそのまま映像の中で動き回っていて、「妻夫木聡、すごい!」と思いました。失礼ながら、こんな複雑な男を演じられる役者になられるとは、と観ている間中感心していました。
モモこと楚要煥を演じるチャンミン(東方神起)も、「演じてる」感がそのまま日本にも故国にも生きどころのないモモのぎこちなさやかわいらしさにつながっていて、見事なほどハマってました。
西田敏行も、ミスリードを誘って仲間どころか観客まで終始不安にさせる役どころにぴったり。浅野忠信も桐谷健太も溝端淳平も、『黄金』の役者さんは皆、役にハマっていてよかったです。
舞台は大阪。北朝鮮の工作員やヤクザが蠢く闇に片足突っ込みながら、社会から微妙にあぶれた男たちが銀行の地下金庫に眠る240億の金塊強奪を企てる。
ハードボイルドでも任侠でも人情でもない、泥くさいのに乾いている、この空気感を映像にできるのは井筒和幸監督しかいないだろうなあと思ったら、そのとおり。原作に感じた汗くさい退廃が漂うなか、「人がいない土地」に憧れる幸田の始終が最初から張られた伏線の回収と共に収束して、お見事でした。
『黄金を抱いて翔べ』は後を引く映画ですね。幸田も北川も金塊強奪の準備を進めるうちに大切なものを失っていくのですが、それでも計画を止めない。その心情は「これだけのものを失ったのだから、せめて金塊だけでも手に入れたい」なのか、「何を失っても、金塊を手に入れる!」なのか。
どちらにせよ、ひとつことに夢中になった男は無理も道理も眼中になく、周りがどう思おうが「男のロマン」で通してしまうんだなあ。女はそれを呆れながら見守るしかないんだなあと思いました。そういう目線で見られるのは、高村薫の原作小説が女性の目線で書かれているからでしょうね。
だから登場人物はそれぞれ男くさく泥くさく血なまぐさく湿気ているのに、彼らが発する空気は熱く乾いていて、共感も同情も必要としない、入り込めない距離を感じます。そこに井筒監督の男の目で見た「愛すべき男たち」の像が加わって、独特のバランスをもった映像になったんだろうと思います。面白い!
『黄金を抱いて翔べ』予告編:http://www.youtube.com/watch?v=mrouQhBycaw
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