映像による叙述トリックの妙! 人と死者の身代わりロボットの想いが切ないアニメ映画『ハル』
『ハル』を鑑賞。私の場合、感動より驚きが勝りました。まさか映像で叙述トリックをかまされるとは……。「ああ、こういうことができるんだ」と、これは実写の脚本家ならではの発想というか技法というか。
冒頭から違和感があるんですよ。「ん? んんん〜?」と思う部分が積み重なっていって、ある時点で「ああ!」となる。そうすると、そこまでの違和感がすべて納得に変わるというカタルシス。いや、お見事!
ただ、ハルとリュウのつき合いについて、もうひと押し描いてほしいと思いました。ハルが重傷を負ったとき、くるみの前で見せた虚無の表情や、くるみがなぜハルが「ボタン」を売ったことであんなに怒ったのか。ハルとリュウが金のためならなんでもやるということはわかりましたが、その「なんでも」の部分やハルとリュウの闇サイドでの役割分担がわからないので、なんかすべて得心とはいかないのですわ。
くるみの言葉を借りれば、「ハルのこと、わかってあげられなくてごめんなさい」という、その気持ちがそのまま余韻を引きます。
クライマックス前にリュウとハルの間に闇取り引きに協力する、しないについてのひと騒動と、それに伴う回想があってもよかったんじゃないか、と。ブルース・リーだかのコスプレに気を回してる場合じゃないよ、と(笑)。
あと、キューイチの胸の赤光や「ボタン」の赤光、最初から印象的に見せているわりに、最後は「この二つ、重ならせたかったんじゃないの? 違うの!?」と、少々中途半端に感じました。
でも、なんだろう、観終わって帰宅してからじんわりクる。そんな映画ですね。
ハルの細谷佳正さんの息遣いにまで演技が入った声の細やかな変化は「違和感」を覚えた要因のひとつだったので、「なるほど」の思いとともに、やはりお上手だなと思いました。
くるみ役の日笠陽子さんは事故の前後で変わっても「かわいい」でくくられる、その演技こそが目隠しだったんだな、と。荒波の辻親八さん、時夫の大木民夫さん、月子のキャストさんも、とてもリアルで存在感がありました。
京の町家の描写もですが、建具や床のきしむ音、雨や川の流れの音など音響も控えめな音楽も細やかで気持ちいい。1時間があっという間でした。
『ハル』サイト:http://hal-anime.com/
『ハル』本予告:http://www.youtube.com/watch?v=tNXhoXiufGk
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