『特捜最前線』叶旬一警部補……逝去
訃報を見て、「うそ……」と絶句してしまいました。夏夕介、胃癌で逝去されたそうです。59歳なんて、まだお若いじゃないですか!
夏氏の代表作と言えば『特捜最前線』の叶旬一警部補役しか知りませんが、この刑事ドラマは私にとって祖母の思い出と結びついた大切な大切な番組です。
大学4回生から大学院にかけての3年間、講義のコマ数がぐっと減ったので、わりと家にいることが多かったんですね。当時、朝日放送の平日15時〜はTVドラマの再放送枠で、『特捜最前線』を長く放送していました。その時間は祖母と私のお茶タイムで、『特捜最前線』を観ながら祖母の肩叩きをするのが、私の日課だったのです。
「船村刑事(大滝秀治)の回は人情ものが多いねえ」とか、「長坂(秀佳)さんの脚本は時限爆弾とかハラハラする話が多いわ。心臓に悪い」とか、「紅林さん(横光克彦)は賢そうでええねえ」(祖母は紅林刑事と二谷英明演じる神代警視正のファン)とか、「また吉野刑事(誠直也)が先走るんやで」などなど、今でも祖母の肩の感触とともに交わした会話を思い出します。私が叶刑事のファンなのはモロバレで、「叶さんが出てくると、あんたの手に力が入る」と笑われたものでした。
世間でも学校でも評判だったにも関わらず『太陽にほえろ!』も『西部警察』も観ていなかった私にとって、和製ミステリー・サスペンスの連続テレビドラマは『特捜最前線』の再放送が初体験。人情がらみ、金銭がらみの個人レベルの事件から、国際テロ、政治汚職、組織犯罪、麻薬、全共闘時代の名残り、特に当時の世相を浮き彫りにした土地転がしなど、リアリティのある重厚なドラマにどっぷりハマりました。
繊細そうな甘いマスクなのに、言動はトゲがバリバリで、計算高い理性的なタイプかと思いきや、ツッパリ型の独断専行。できた大人が多い「特捜」チームのなかではちょっと浮いた存在で、貧乏くじを引くことが多かった叶刑事。
彼が主役の回は、もう最初から最後までハラハラさせられっぱなし。むしろほかのメンバーのフォローやバックアップに励んでくれているほうが、その冷静さや手際の巧緻さが際立ってかっこよく見えるという、ある意味、ファン泣かせな役どころ。
世間に対して不器用に斜に構える彼と、なにごとにもまっすぐぶつかる熱血漢の吉野刑事との凸凹コンビっぷりも、シリアスタッチだった番組のなかでの笑いどころで、息の抜きどころでした。
あまりにも叶刑事の印象が強すぎて、好きすぎて、私のなかで夏氏がイコール叶刑事になってしまったのは、なんともしようのないハートの作用です。
以後、2時間枠のサスペンスドラマなどに夏氏の姿を見つけて、「あ、出てはる出てはる」とそのまま見入ること、しばしば。追っかけとは言わないまでも、画面にチラリと映れば、「あ、叶さん!」と目が行く俳優さんでした(こんなふうに「あ!」と思う俳優さんはふたりだけで、もうひとりは田中実)。
もうお姿を拝見することはないんだ──。そう思うと、20代の記憶がはるかに遠ざかったような、ひどく自分が年を取ってしまったような気がします。信じがたい思いと力が抜けたようなこの感じは、少し後を引きそうです。
叶警部補、お疲れさまでした。忘れえぬ思い出をありがとうございました。
どうぞ安らかにお眠りください。
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