『アーティスト』はレトロなのに新しい、美しい、映画史を語る映画
今期、絶対に見逃してはいけないと思っていた映画が『アーティスト』。今年2月に行われた第84回アカデミー賞授賞式で、作品賞・監督賞・主演男優賞・衣装デザイン賞・作曲賞の5部門受賞の快作です。
『ヒューゴの不思議な発明』が描いたのが映画初期史なら、『アーティスト』は映画中期史といったところでしょうか。1920年代後半のハリウッドを舞台に、サイレント(無声)からトーキー(発声)に移る映画業界に取り残された無声映画の花形スターの物語。全編モノクロで、BGM以外の音は効果音が一カ所入る程度。セリフはすべて字幕です。
没落した男優とトーキーで人気急上昇の新人女優。物語は単純で、最初から結末は見えてるんだけど、そこに至るまでのもだもだが、ほんとにもだもださせられます。「ああ、無声映画ってこんな感じ!」となんか妙に納得してしまいました。
男優のベースイメージはおそらくダグラス・フェアバンクス。映像にはアラン・ロブ=グリエやルネ・クレール、アルフレッド・ヒッチコック、そしてフレッド・アステアの映画を彷彿させる絵面が挟み込まれ(私が映画にくわしければ、もっといろいろ見つかるでしょうが……)、オールド映画ファンにはたぶんたまらないはず。
無声の世界で生きてきた男優が、爆音などの効果音や声の洪水に責められるところは、映像で観客の生理的な恐怖や嫌悪感を引き出そうとした、ヒッチコックやロブ=グリエの映画を思い出させます。
なにより、セリフ無しでもみるみるロマンスが綴られていくのを見ると、「言葉ってなんなんだろうなあ」って考えたり(笑)。レトロなのに新しい、美しい映画。ぜひ!
ちなみに、観ている間中、高口里純のコミック『伯爵と呼ばれた男』が思い出されてなりませんでした。「今宵、天国に新たな星がひとつ生まれる。ルーディー!」(だったかな)のルドルフ・ヴァレンチノとか。このあたりが好きな方にもお薦めです。
『アーティスト』サイト:http://artist.gaga.ne.jp/
『アーティスト』予告編:http://www.youtube.com/watch?v=cjDCfV1nLIk
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