Diary For Paranoid @ hatena

思いつくまま書くブログ。最近は窪田正孝出演作品感想に特化してます(笑)。

「ビルドゥングスロマン」について考えてみた。

 「ビルドゥングスロマン」が好きです!
 恥ずかしながら、かなり長い間、「ビルディングロマン」だと思っていました。この小説形式はドイツ生まれなので、ドイツ語のBildungs(形成)をRoman(長編小説)にくっつけて「Bildungsroman」。ちなみにBildungと単数形にすると、教育・陶冶・教養・学識といった意味になります。
 日本語では「教養小説」と訳されますが、「成長物語」のほうがわかりやすいでしょうか。「(多くの場合、幼年期から成年にかけて)主人公の精神的、心理的、または社会的な発展や精神形成を描く小説のこと」(wikipedia)です。


 ビルドゥングスロマンの主人公はだいたい8歳から15歳くらいまでの男の子が多いんじゃないかと思います。女の子が主人公のビルドゥングスロマンって、あんまり見ませんね。
 自分を顧みるに、女の子って4、5歳でもう性格というか自我ができてしまう気がします。揺るぎない自我のまわりに、ぐるりと囲むように壁があって、そこにたくさんの扉がついている。女の子の成長というのは、その扉をひとつずつ開けて外の世界を見て、新しい景色を知っていくような感じではないか、と。
 というのも、アンケートなどで「尊敬する人はだれですか?」「影響を受けた人はだれですか?」という質問をよく見かけますが、私の答は「いない」なんですね。「こんなことができるなんてすごいなあ」とか「生きざまがかっこいいなあ」とか感心したり、感動したりすることはありますが、そんな人生を知ったり、そんな人に出会ったりしたことで自分の性格や人生に影響があったかというと、そういう事実は見当たらない。
 自分がそうなので、幼い女の子がさまざまな人に出会って、自我を形成していく、あるいは自我の再構築をするという物語を読んだとしたら、嘘くさいと感じるだろうなあと思います。
 女の子の場合、いろいろな人物、さまざまな事象、そして変化を知ることは、自分のまわりの扉を開いていくことで、その扉から見聞きした事柄について自我とどう折り合いをつけるか、というのが、「成長物語」のキモになってくるのではと思うのです。


 対して、男の子はわりと年齢を重ねるまで堅固な自我ってできてこないのではないかと思っています。
 これは弟の印象なのですが、小学生の彼が強く自己主張をしているのを見たことがない。もちろん、好きなもの、嫌いなものはあって、そのあたりの主張は激しかったし、くだらないことでよくケンカもしました。ただ、そのケンカの理由が、「だからあんたはどうしたいのよ!?」「どう思ってるのよ?」「はっきりしなさいよ!」という、主に私の苛立ちからきていたように記憶しているんですね。
 どうも男の子というのは、女の子と違って、経験したことを積み上げて性格や自我というものをつくっていくのではないか。それが形成されるまでは、わりとどうにでも曲がるというか、やわらかいものなのではないかと感じるのです。
 出会った人や体験したことでなにか目標を定め、そこに突き進もうと決意したなら、その子の自我は立方体の箱がまっすぐきれいに積み上がったような状態になる。あまりにもさまざまな人に出会って影響され、あるいは善悪の境を見失うような体験をした場合は、その子の自我は立方体や直方体、三角錐や円錐がいびつに組み上がったゆがんだオブジェのようなものになる。そうして、15か16歳くらいでその形が固まるのかなという気がしています。


 「成長物語」としておもしろいのは、自我が定まらないところから始めて、形成過程が描ける男の子のほうでしょうね。と、ビルドゥングスロマンの主人公に少年が圧倒的に多い理由をなんとなく納得しています。
 ビルドゥングスロマンが発展するきっかけとなったのは、1796年に発表されたゲーテの『ヴィルヘルム・マイスターの修業時代』。この時代に、恋愛をテーマにしない少女の「成長物語」など、だれも関心をもたなかっただろうことはさておき。

 趣味の小説もなんとなくビルドゥングスロマン仕立てにしてしまうので、よくよく好きなんでしょう。というか、読まれた方に指摘されて、「あ、これってビルドゥングスロマンか!?」と読み返したら、そうでしたという……。当時は真剣に我流BLを追究しているつもりだったので、無意識な混ざりっぷりに根っから好きなんだなあと思ったことでした。
 ただ、やはり女の子を主人公にして書くのは難しい。ひとつには、同性として「その年頃の自分はなにを考え、どう感じていたか」といちいち振り返ってしまうので、書く作業があんまりおもしろくない。客観性ももてないので、「これ、読んでておもしろいか?」と判断がつかないのも困りもの。
 男の子のほうが完全にフィクションで書けるので楽しい。さまざまなことに気づかせながら、一人前のいい男に育てていくのがおもしろいです(笑)。ただ、そこにも考えるべきところがあって、12歳を主人公にするか、14歳にするかというのは、たった2歳の違いでも、非常に重要な問題だったりします。
 一度、11歳から15歳くらいまでの変化をテーマに書いてみたいと思うのですが、難しすぎて、途中で挫折する気がひしひしする……。


 『テガミバチ』を読んでいて、やっぱりビルドゥングスロマンはいいなあと再認識した次第。たまに正統派のこの手の作品に出会うと、問答無用でのめりこんでしまいます。

ヴィルヘルム・マイスターの修業時代〈上〉 (岩波文庫)

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デイヴィッド・コパフィールド〈1〉 (岩波文庫)

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車輪の下 (新潮文庫)

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