Diary For Paranoid @ hatena

思いつくまま書くブログ。最近は窪田正孝出演作品感想に特化してます(笑)。

メイキング オブ 『BL好きのための オトコのカラダとセックス』第1章



 この仕事のオファーが来たのは3月初旬。昨年関わった『はじめての人のためのBLガイド』(玄光社)を見て、とのことでした。『はじめての〜』もかなり力を入れた本でしたので、目に留めていただいたのはうれしかったです。



 オファーのメールに書かれていたのは、「BL作品で描かれる男性同士のセックスシーンでのあるあるや“腐常識”、男性の体に関する疑問について、生物学的・医学的な視点を交えながら解説する『BL保健体育』」をコンセプトに、BL好きな女医さんやBLを読むゲイの方に取材するということ。

 「やります」と即決したのは、「こういう本が出たらいいな」と思っていたからです。



 BLマンガにしてもBL小説にしても、男性の身体の構造やメカニズムを知ったうえで描いている人とそうでない人、わりとわかるんです。「いや〜初めてでそんなにすんなり入らないでしょ」とか、「その体勢だと挿入(はい)ってないよね。ス◯タでそこまで痛がらないでしょ」とか。セックスシーンが過激に描かれていても、「これと似た描き方、他のBL作品で見たな」とか、「これは男性向け成人指定作品を参考にしてるな」とか。

 「BLは“やおい穴”があるファンタジー」と了解していますし、特にマンガは絵柄や勢いや雰囲気で読めてしまうものが多いので、気にならないのがほとんどです。

 ただ、作品の中で「ふたりにとってそのセックス、あるいはその最中に感じたこと、起こったこと」が先の展開を決めたり、それがテーマになっていた場合には、「いやあ、ちょっと……うーん」と残念な気持ちになってしまう。でも、調べるといっても、モノがモノだけに人に気軽に聞けるわけもなし、書籍で調べるにしても見当がつかなくて難しいよね、と思っていました。



 ところが、昨年の夏あたりから、セックスシーンの描写が総じてリアルになったように感じるうえに、それまで描かれたことのない性感帯の名称を見るようになりました。

 ちょうど、私のTwitterのTLに流れてきたのをきっかけに「男の娘AV女優」として活躍されていた大島薫さんのtwitterを見るようになっていたので、「ああ」と思いました。特に、その性感帯名が医学分野で言われるのとは微妙に違っているところがポイント。その単語が使われている作品は、大島さんのtwitterを参考にしたのだなとわかったのです。

 驚いたのは、その伝播の速さ。BLを書く/描く人の多くが「リアル」を欲しがっていたのだと理解しました。となれば、性科学も絡めた「リアル」な本は需要があるのではないか。編集さんからのメールは、そう考えていたところでのタイムリーなオファーだったのです。



 最初の打ち合わせですり合わせたのは、ライターが女性、取材する医師も女性である以上、そこに男性同士のセックスの実態を知る男性の“証言”がなくては、ただ女性の妄想を書いただけの本になってしまう、ということ。証言をいただく男性候補として、私からは大島さんと、あとおふたりほどご紹介しました。



 取材については、監修としてご協力いただいたおふたりの女医さんのうち、おひとりにインタビューしました。そこでわかったのは、肛門性交でなぜ男性が「感じる」のか、医学や生理学では説明がつかないらしい、ということです。本書にも書きましたが、「人体の神秘」としか言いようがない(笑)。

 ついでに前立腺をはじめ生殖器の機能や性感については解明されていないことが多々あるのです。それはそうでしょう。医学や生理学的見地から実験したくても、プライベートの極地のことで相当数の被験体が集まらないでしょう。個人差も大きいことですしね。それでも、男性は1日何時間勃起するのかとか、脊髄の違う部位を損傷した何人かに協力を得てオーガスムがどこで発生するのかとか、実験されている。むしろ、その実験ができたことが「すごい!」と思っちゃいます。



 イヤな予感はしていました。「直腸は自律神経によって支配されているため、痛みを感じる神経はありません」は定説。では「どこで、なぜ感じるのか」は私自身が長らく謎に思ってきたことですから。

 もちろん、先生に取材することでわかった事実はたくさんあります。第1章のほとんどすべての項目に反映させています。ただ、一番大きな問題が謎のまま残ってしまいました。



 ということで、ここから資料探しが始まります。ありがたかったのは、編集さんが図書館へ行って、ここ2、3年に刊行された最新の性科学の書籍の該当部分をコピーしてくださったこと。自分で探すとなると、すごく時間がかかったでしょう。それでも足りずに自分で探した資料もあります。時間の無駄になったモノもあれば、ヒントを与えてくれたモノもあり。その過程で、「この方、絶対に性科学を勉強されている」と記憶にとどめていたBL作家さんたちの参考文献がわかったり。それほど、まだ限られた研究分野なんですね。



 さて、資料を集めて読み込んで、次にぶつかったのは、資料ごとの単語や表現の違いです。たとえば、ある資料には「精嚢」とあり、別の資料には「精嚢腺」とある。これは同じモノを言っているのか、違うものなのか、どちらかがどちらかの一部なのか、どちらかの名称にまとめてもいいのか。また、射精のメカニズムの表現、海綿体を構成する血管と筋肉の名称と勃起に至るシステムの表現などなど、「方言か!?」とツッコみたくなるくらい、資料ごとに違っていたのです。

 詳細な断面図を調べて位置や構造を特定し、英名あるいはラテン語名を調べて(ドイツ語はわからないのでパス!)和名を探っていく。いろいろな表現で書かれた資料の公約数を探っていき、そもそものメカニズムやシステムを理解して、自分の言葉で書いていく……。

 しばらくはBL小説を読んでも、カラーの生殖器断面図が浮かんでしまい、まったく萌えない状態が続いていましたが、現在は完治しました(笑)。



 ちなみに、男性向け成人指定マンガは、女性器の断面図が描かれる事が多いですよね。男性はああいう生々しいのに萌えるのかと思っていましたが、最近、BLマンガでも見るようになりました。男性向け作品の作家さんがBL作品も描かれている、あるいは男性向け作品に影響を受けた(萌えを感じる)方がBL作品を描いている。どちらにしても、そういう意味で「両刀」の方も増えているのでしょうか。



 紆余曲折あり、試行錯誤あり、どんでん返しあり、だった本書の作業。見本誌をいただいたときは、「よく完成したなあ」と感無量でした。ライターのひとりとして、途中で投げ出さずに責任を全うできて、本当にホッとしました。



 あくまでも「性科学」、あくまでも「保健体育」と自分に言い聞かせ、保健体育の先生になったつもりで“科学的に”書いた本書が、amazonで「性風俗」ジャンルに分類されたことには笑ってしまいました。……まさかamazonに心を読まれるとは思ってなかったので(笑)。

 書店のサブカルコーナーに行くと、目に入るのが男性向けに女性とのセックスのノウハウや女性の身体について、あるいは風俗店について書かれた本。背表紙に踊る刺激的なタイトルやその数の多さに、どうしても女性の性って消費されるものなんだなあって、溜息が出ちゃうんですよ。だから、そこにどう見ても女性向けの『オトコのカラダとセックス』が並んだら、男性はどう感じるんだろうかとひっそり考えていたのです。

 どうやらサブカルコーナーに置かれた書店があったらしく、偶然目にされた男性は違和感を覚えられたようです。また、奥様が買われた本書に、ご主人が「セクハラ」とおっしゃったり。

 そういう反応になるでしょうねと首肯しつつも、できれば男性にも読んでいただきたい。男性は意外に自分の身体のこと、ご存知ではないのでは、とほぼ確信しているので……。電子書籍も販売していますので、興味のある方はぜひ!




BL好きのための オトコのカラダとセックス

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BL好きのための オトコのカラダとセックス (一迅社ブックスDF)

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はじめての人のためのBLガイド (玄光社MOOK)

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