Diary For Paranoid @ hatena

思いつくまま書くブログ。最近は窪田正孝出演作品感想に特化してます(笑)。

映画『マイケル・ジャクソン THIS IS IT』は大スクリーンで!

 今年7月からロンドンのザ・O2アリーナで行われるはずだった、マイケル・ジャクソンの「This Is It」コンサート。1996年9月7日〜1997年10月15日の「HIStory Tour」から13年ぶりになるはずだった、この果たされなかったコンサートのリハーサル風景をまとめたものが、映画『マイケル・ジャクソン THIS IS IT』です。
 マイケルが個人的な記録として撮影していたというビデオ映像から、4月から6月まで百時間以上に及ぶリハーサルや舞台裏のようすが、コンサートの監督でクリエイティヴ・パートナーだったケニー・オルテガの手で編集されています。

 ドキュメンタリー映像ということで、映画としての抑揚に欠ける冗長なものになってるんじゃないかとか、スタッフやファンのマイケルを惜しむ声が挟まれた「やりすぎ」感あふれるものになってるんじゃないかとか不安を感じつつも、レディースデイ目指してオンラインで座席指定予約までしてしまう……この熱心さが仕事でも発揮できたらいいのに orz。
 さすがレディースデイ。新宿ピカデリーのメインスクリーンはほぼ女性で満席でした。


 さて、実際に観てみると、私の不安はまったく的外れなものでした。リハーサル風景だけに焦点を絞り、感傷的な画像は一切なし。おそらくコンサートのプログラムと同じ曲順で、マイケルの歌とダンス、バックダンサーたちのパフォーマンス、プレイヤーたちの演奏、バックスクリーンに映し出されるはずのCG映像などが、みごとに編集されていました。1時間51分があっという間です。
 「マイケルの死」の匂いを完全に廃し、なにも足すことなく、まるでライブPVのようにこの映画を仕上げたことことこそが、オルテガ監督の「This Is It」コンサートへの、そしてなによりマイケルへの愛情と尊敬と哀惜の表れのようで、むしろその想いに打たれました。


 鑑賞するうちに、私がマイケルの歌から遠ざかったのは「Heal the World」(1993年)あたりからだったかなあと思い出しました。
 世代的なことなのか、地域的なことなのか知りませんが、小・中学校のころ、とにかく「戦争は悪いことだ」「公害は起こしてはならないことだ」と叩き込まれたんですね。戦争だって、公害だってよくない。それはもうね、よくわかっています。ただ、あまりにもしつこく言われると、だんだん「それを起こしたのは、誰だ。私らかい? 『過ちは二度と起こしませんから』はそのとおりで結構だけど、それを戦争を知らない世代に、この国が嫌いになるほどに、この国には正義も未来もないと感じてしまうほどに繰り言するあなた方は、結局なんなんだ」と、まあ、反発心のほうが強くなってしまったわけです。年齢的にも反抗期ですしね(笑)。
 そんな素地があったがために、「Heal the World」を聞いたとたん、説教がましく思えて拒否反応を起こした、と。また、幼い子どもを登場させるという演出にあざとさを感じなかったと言えば、ウソになります。
 それまでは同じ目線に立っていてくれたマイケルが、急に高みに行ってしまったというかね。「起こしたいがために戦争を起こし、利益を追求するためには公害を垂れ流してもなんとも思わない。自然を破壊し、自分以外の人間を苦しめることしかしない、浅ましいばかりの国。この国を愛してはいけない」と教育されてきた私に、あなたまでダメ押しをするのか、とね。

 今から思えば、長らく中二病的にふてくされていたなあと思います(笑)。しかし日本を離れるという経験をしなければ、今でも精神的に亡国の民だったかもしれません。人によるでしょうけれど、それほど子ども時代の教育というのは根深いものがあるのです。まあ、現在の教育現場のありさまを母親たる友人たちから愚痴られたり、ニュースで聞いたりするたびに、「私の悩みはなんだったんだ」と虚しい心持ちになりますがね。っと、話がそれました。


 映画の終盤で「Heal the World」と同じ流れのなかにある「EARTH SONG」(1995年)を聴いても、もう拒否感は覚えませんでした。やはりこのテの楽曲の演出にあざとさは感じてしまうのですが、それ以上に、きれいな旋律と最高に美しいマイケルの歌声が堪能できるこの曲との出会いが遅すぎたことを悔やむばかりです。


 映像のなかのマイケルは、50歳とは思えないほど、キレのいいダンスと低音高音自由自在の歌唱力を見せつけてくれました。
 「観客を今まで見たことのない世界へ連れて行く」。その到達点を目指して、「かっこいいポーズ」「美しいシルエット」と彼が計算するままに動き、止まる、鍛錬され、完全に制御されたマイケル自身の肢体。自分が欲しい音、欲しい光景が明確なうえ、それを他人にきっちりと伝えられる表現力。「ああ、これが『舞台の神』というものか。見る者すべての視線を集中させ、自分の世界に巻き込んで陶酔させてしまう。なるほど、多くの人が彼と仕事をしたいと願う所以か」と納得しました。「KING OF POP」の名はダテじゃありません。
 ところどころ、なんとなく苦しそうだったり、思いどおりにいかないことにイラついてるようすも見られるのですが。マイケルのちょっとした気分の下降やわずかに見せるしんどそうな表情にすかさず反応するオルテガ監督のさり気ないフォローがまたいい感じなんですよ! 「マイケル、愛されてるなあ」と、なんだかほのぼのしてしまいました。

 オルテガ監督ばかりでなく、すべてのプレイヤーが、ダンサーが、照明やエフェクト、衣装や振り付け、CG合成などなどなどのスタッフが、マイケルのために最高のものを創り上げようとしていたステージ。現実になったらどんなにすごかっただろうかと、舞台の映像にもはやかなうことのない期待ばかりがつのります。
 「取り返しのつかない喪失」というのが、この世には確かにあるのだと再認識させてくれる映画。世界同時に2週間だけの公開とのことでしたが、延長決定の映画館もあるようです。
 大きなスクリーンで観る価値のある映像です。マイケルファンの方はもちろん、それほどでもないという方も、ひとりの人間がここまでのステージをつくることができるという、ひとつの伝説を目撃するために、足を運んでみてはいかがでしょう。

 THIS IS IT! ──今が、そのとき!


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6月27日の「日記」にUPした、「Bad Tour 1987」の一環だった
Michael Jackson JAPAN TOUR '87」パンフレットの裏表紙。
このころから「子ども」がひとつのキーワードだったんだなあ。