Diary For Paranoid @ hatena

思いつくまま書くブログ。最近は窪田正孝出演作品感想に特化してます(笑)。

『アンナチュラル』が特殊な理由を考えてみた



 TVドラマ『アンナチュラル』の魅力は数々ありますが、私が注目しているひとつは、連続殺人を起こさずに事件を解決している点です。

 ひとつめの事件では糸口がつかめず、ふたつめ、あるいはみっつめの事件の類似を探ることで解決に導くのは、サスペンスドラマの常套手段。それにより事件の難解さ、犯人の狡猾さや非情さを際立たせることで、視聴者をハラハラドキドキさせ、対峙する探偵役を不可能に挑戦する頭脳明晰なヒーローとして印象づけます。



 逆を言えば、事件解決のために死体が作られているかに見えるサスペンスドラマが多いなかで、『アンナチュラル』は“ひとりの遺体”の死の原因を突き止めることに終始しているのが特殊。死因特定のためのさまざまな分析作業……第1話の毒物判定や血液などの体液検査、組織培養など、「結果が出るまでの時間」を探偵が証拠を見つけていく過程に置き換えて、ただひとりの遺体、ただひとつの事件を解いていく。

 これは、本格派や社会派が誕生する以前、シャーロック・ホームズ作品等の古典派の物語の進め方。そう思えば、ミコトたちUDIメンバーは、ホームズが科学の知識や人間観察法を駆使し、虫眼鏡で事件現場をくまなく見るがごとく、遺体から手がかりを得ようと観察し、分析し、記録しています。

 第7話に登場したホームズシリーズの1作「ソア橋」は実に暗示的でした。



 私が好きなドラマのひとつ、『科捜研の女』では、沢口靖子演じる榊マリコがヒントを思いつくと、メンバーが一昼夜ほどの実験分析で彼女が望む結果を出しているように見えます。

 実際は何日もかかる鑑定もあり、モノによって鑑定結果が出るまでの時間が違うことを、逆手に取って物語の節目に置いたのが『アンナチュラル』だと思うのです。



 BBCの『シャーロック』がホームズを自称「高機能ソシオパス」として21世紀のロンドンに生まれ変わらせたものなら、『アンナチュラル』は医学・薬学・犯罪医学の最先端が集まるUDIラボにおいて、「死因のわからない死などあってはならない」と理想を掲げ、知識と観察力で真っ向から不自然死に挑む、誠実で実直で不器用な“ホームズ”たちを描いたものではないか。

 ミステリータッチのサスペンスドラマを制作するにあたって、第二、第三の事件を起こさなくても(物語のために死体を作らなくても)、ひとつ、またひとつと発見があり、謎が解かれていく展開はできるのだと、ひとつの見本を見せられているような気がします。



 さて、第1話からの通奏低音である「赤い金魚」。中堂の恋人が巻き込まれているからこそ、ただの「連続殺人事件」ではなく、中堂の「永遠に答えのない問い」が決着するのか、の大きな命題を含んでいます。これ、単なる連続殺人事件ではなく、メインキャラクターの過去を絡ませたところに、物語の展開のためだけ(探偵をヒーローにするためだけ)に死体を作らないという意志を感じるのですが、考えすぎでしょうか。

 ともあれ、「事件を解決する」のではなく、「この人はなぜ死んだのか」を探ることにこだわってきた、この作品。「赤い金魚」の謎の果てに何が待ってるのか、刮目して待機しています。



 『アンナチュラル』公式サイト http://www.tbs.co.jp/unnatural2018/